連載556。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー21
(正彦がしたためた「専売特許願い」の草稿を、糸が頑張って読んでいます。文はその後半。)
そもそも、太糸を手紡ぎする多くは、技術力の低い女性の業で、その撚(よ)り賃はわずかに、二抱(かかえ)一銭にも満たぬ故に、上手下手に関わらず、いたずらに迅速を欲して、自然と拙い仕事になります。諺(ことわざ)に言う『無能業(業に値しない)』ということになるのです。
太糸手紡ぎを上手に行う婦女でも、果たして、裁縫や紬の熟練工の賃金を超えることはできません。
私の作った機械は玩具のように見えますが、良くご覧いただき、その後にあまねく広め、その流れによって旧習を洗徐し、これをもって、国の恩に報いたいと思っています。
しかしながら、私は微力ですので、その造営をすることができず、他の人の協力をお願いするしかありません。
どうか、期限を限り、この機械を造って利益を得ようとする者より、きわめて当然の謝金を請けることができるように計らってください。
これをもって、私の長年の疲弊が補なわれることを請うものであります。
誠に恐れ多いことですが、平身低頭、お願いする次第です。
第九大区七小区
安曇郡烏川村岩原耕地
明治八年四月十日 臥雲辰致
永山盛輝殿』
と、まあ、糸の拙い読解では正彦さんの「専売特許願い」の草稿は、こんなことが書いてあったのでございます。
(次回、連載557に続く。
少女の14歳の誕生日を祝いに、東京へ行ってきました。写真は、そのパパとママ、と二人の仲良し姉妹です。ケーキは、ママの手作り)