連載621.小説『山を仰ぐ』第9章栄光と事業の困難―①再婚と天皇天覧―8
連載621。小説『山を仰ぐ』第9章・栄光と事業の困難-①再婚と天皇天覧ー8
(元旦に、縁談の返事をするために河澄家を訪れた辰致は、糸たちを前に、話し始めました)
「糸さまとの縁談は、東京の武居正彦さんからも伺っておりまして、波多腰さまにも正彦さんにもお返事が出来ずにおり、誠に失礼をしました。
糸さんは若く美しく聡明で、御気性も申し分なく、この縁談は、私にはもったいないお話であります。二年前にキヨから離縁された私は、結婚に臆病になってもいます。
それに、私は、少年の頃より、二十数年も機械のことを考え続けているような変わり者ですゆえ、とても婿という立場は務まりません。機械に関して曲げられない思いが強いのは、この私が一番わかっていることでございます。
もし、婿としてではなく、糸さまを臥雲の嫁としていただけるのならば、この上なく有難き幸せで、生涯にわたって感謝申しあげます。
ただ、私がいくら糸さまを臥雲の嫁にと言いましても、私は、家もなく仕事もまだ定かではありません。博覧会で鳳紋褒賞をもらっただけで、暮らしの目途は立っておりません。
このような身で、糸さまを嫁にいただきたいと言うのは、虫が良過ぎるというか、叶うはずもないことと思いますが、ですが、ともかくも、私の正直な気持ちをお伝えしようと思って、ここへまいりました」
辰致さまは一気にそう言うと、目を上げて父と母をしかと見、最後に、大きな目を見開くように糸を見てくださいました。
(次回、連載622に続く。
写真は、昨日届いた母の日のプレゼント。ワインはオーガニックなんですって! おぐらやまオーガニックシードル(リンゴ酒)も、母の日バージョンや父の日バージョンや、お誕生日や、クリスマスや、お歳暮バージョンセットがあると、喜ばれるかもね。
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