連載316。小説『山を仰ぐ』第5章ー①ー22 (写真は、今年の夏ハワイで)

連載316。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―①俊量が語る少年栄弥―22 
 (前回栄弥は、兄の外回りの仕事について廻っていましたが、ついに手習所へいくことになりました)

 梅と桜が同時に咲き始めた頃でした。常念岳はまだ雪を被ったまま、その日も白い塊が天を突くようにそびえています。
 こぶしの花が開く横山家の門の前で、栄弥さんは西を振り向き、山を仰ぎました。さあ、これから、手習所へ通うのです。闘志は隠していましたが、道場破りにいくような意気込みでした。
 九八郎さんが使った天神机を担いで、栄弥さんが野の道を南に歩く朝、まだ小さな妹ふたりが、
「おらも行くー」と言いながら、栄弥さんの後を追ったそうです。わらぞうりを引っ掛けた小さな足でつまずきながらね。栄弥さんが兄やの後を追ったのと同じで、妹たちも栄弥兄やが大好きでした。
 妹たちにとって、上の八九郎兄は父さんの代理みたいで怖かったけれど、栄弥さんは優しかったですからね。栄弥さんは口べただから優しい言葉は言えないけれど、女の子の気持ちをくんで、仕草が優しかったですね。
 嘉永三年(1850年)のこの時、手習所は二十二年目を迎え、松田斐宣師匠は四十九歳でした。
 先生は『仮名いろは』や『村尽くし』や『国尽くし』の手本を習字で書き、これを読ませ、書かせ、暗誦させ、地理や歴史や作文の基本を教えました。
 読み方では、基礎になる『庭訓往来(ていきんおうらい・初級の教科書)』や『百姓往来』の他に、職人の子供たちのための『番匠(ばんしょう・大工)往来』もあり、算盤(そろばん)の他に算術も教えてくれました。
 
 (次回、連載317に続く。
 写真は今年の夏、ハワイで)連載316。小説『山を仰ぐ』第5章ー①ー22 (写真は、今年の夏ハワイで)

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