連載535.小説『山を仰ぐ』第7章ー③結婚と別れー80

連載535小説『山を仰ぐ』第7章・臥雲辰致の誕生―③結婚と別れー80 
 (今回で、第7章・臥雲辰致の誕生ー③結婚と別れ、が終了します)

 おや、まあ、びっくり仰天ではないか。
 お気持ちはありがたいが、キヨはこう返事を書いたのせ。
 「お元気でなによりです。新聞でタッチさの活躍を読んで、とても喜んでいます。
 町暮らしのお誘いもありがたいですが、キヨは田舎の尼寺暮らしのほうがずっといいです。
 タッチさのことは今でも大好きですが、キヨは立派な尼になって、この寺の仕事をばりばりやって行ける人になります」
 キヨが岩原の臥雲辰致の戸籍から籍を抜いたのは、それからひと月後の、明治九年六月二十三日のことだった。
 お試し期間が無事終わったからせ。タッチさは三十五歳、キヨは二十二歳、納次郎は十八歳だった。
 キヨは一念を貫いてタッチさの嫁になり、一念を貫いて離縁した、ということかもしれない。それはあまり良いことではなかったかもしれが、キヨにはそうしかできなったのせ。
 タッチさと一緒に暮らしたのはおよそ二年、期間としてずれてはいるが、籍を同じくしていたのも二年だった。夫婦としては誠に未熟な歳月だったと思う。 
 しかし、結婚と別れは、それぞれ、成長の一段階だもの、未熟でも仕方なかったさ。それは、飛び切りの宝石のような価値ある段階だった。仏さまからの贈り物だったのさ。
 これからは、一念を通して、仏さまと生きてゆくべ。タッチさとも一緒に生きるさ。いつも思い浮かべて、祈っているもの。
 これからのタッチさが幸せだとしたら、それはキヨのお祈りのおかげだじ。いやいや、キヨの祈りを聞いてくれた仏さまのおかげだな。
 山を仰いで生きるのは誠に幸いなことだ。キヨは俊量さまという山と、臥雲辰致という二つの山を見つけた果報者さ。
 山を仰ぎ、思ってもらった日々に感謝しているのせ。そして、それを下さった仏さまにも感謝だな。

 (次回、連載536に続く。次回からは、第8章・発明家ー①糸が語る波多の辰致、です。
 ここでクイズ。写真の好青年は、誰でしょう? ヒントは、およそ30年前の北海道)

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