連載537.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー2

連載537。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー2
 (前回から、第8章が始まりました。語りは糸)

 糸は次の年も盆も、かく様の籠のお供をして、再び正彦さんと山麓線を歩き、山口家の法事で智恵さまにお会いしました。
 十四になった糸は再び山口家の客間で智恵さま、正彦さんと語らい、その後、智恵さまが住持となった弧峰院にもお伺いしたのです。
 智恵さまと正彦さんのお話は、時代と世の中のこと、仏のこと、平田派のことなど多岐にわたり、そばで聞いているだけでも、糸にとっては、いつもとは違う別世界に来ているような、特別な時間でした。
 やがて明治になり、世の中が慌ただしく変わりました。
 波多村の庄屋の娘として、四姉妹の長女として、母を助け、忙しくも充実した日々を過ごしていた糸にとって、岩原の思い出は、胸の中で宝石のように輝いておりました。 
 正彦さんが洗馬からお嫁さんをもらった半年後、我が家には男の子が生まれ、跡継ぎができたので、私は嫁にも行ける身になりましたが、父さんは糸を嫁に出したくはないようでした。
 「どこぞに、良い婿はいないかの」が父の口癖でしたから。 糸には
 「嫁に出たら、えらい(大変)ずら。うちにいるのが一番せ」と言っていましたし。糸は長女で、家の事がいろいろわかっているから、頼りにされていたのです。
 それに、この辺りでは、長男が家を継いでも、女の子が婿をもらって分家をし、本家の近くに住んで本家を支える、という風習もありました。
 父のお目がねにかなう婿はなかなか見つからず、糸もついつい難癖をつけ、婿取りは進んではいませんでした。

 (次回、連載538に続く。
 今日の写真には、ライトブルーの空飛ぶ車と、妖精さんの赤い服しか写っていないので、アップゆるしてね)

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