連載542.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー7

連載542。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多のの臥雲辰致ー7 

 父の河澄東佐が続けました。
 「うちの水車でいいもんかどうか、これから見にいくだが、その前にここで皆で昼飯を食べましょ。準備もさせてあるだいね」
 智恵さまが慌てて言いました。
 「それはありがたいですが、私は昼までにはお暇(いとま)をするつもりでまいりました」
 父が続けます。
 「まあ、そういわずに、飯をあがっていきましょ。水車小屋へ案内したり、波多腰さんが音頭をとってる新堰も見せなきゃならんでしょ」
 村や県の仕事で忙しい武居美左雄さんと、遠くから来てくれた青木橘次郎さんは先に帰り、波多腰さんと、正彦さんと、智恵さまが、我が家で昼食囲んでくださいました。
 私が給仕をしていると、正彦さんが声をかけてくれます。
 「糸さん、おはるか振りですね。お元気そうで何よりです。しかし、糸さんは、臥雲さんとはもっと久しくお会いしていないのではないですか」
 父が驚いて声を挙げました。
 「おや、なんだい、お前さんたちは知り合いだっただか」
 正彦さんと智恵さまと私は互いに目を合わせて、いたずらっぽく微笑んだのでございます。
 私が言いました。
 「智恵さま、おはるか振りでございます。以前岩原でお会いした糸でございます。智恵さまは、今、お名前が変わったのですか」
 智恵さまが応えました。
 「はい、還俗して、臥雲辰致(たっち)を名乗りました。弧峰院が臥雲山弧峰院という寺でしたから。名前は正式には辰致、ときむね、ともうします」

 (次回、連載543に続く。
 写真は、この秋の思い出)

同じカテゴリー(連載小説『山を仰ぐ』)の記事画像
連載403『山を仰ぐ』第6章ー②明治二年ー5  (写真は、ゲストハウスから徒歩一分の「てくてく」さん。)
連載402。小説『山を仰ぐ』第6章ー②ー4 (写真は松本フォークダンスの会)
連載401。小説『山を仰ぐ』第6章ー②ー3 (写真は、ゲストハウスの看板とサブサブ看板)
連載399。小説『山を仰ぐ』第6章ー②ー1 写真はゲストハウスの四畳半の客間(冬仕様)窓から見える山は、美ヶ原です。
連載398。小説『山を仰ぐ』第6章ー①−15 写真は、楽しいフォークダンス。
連載397。小説『山を仰ぐ』第6章ー①−14。 写真は、ゲストハウスの居間。おこたのある冬仕様の記念に。
同じカテゴリー(連載小説『山を仰ぐ』)の記事
 連載606.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー40 (2025-04-11 23:29)
 連載605.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー39 (2025-04-09 20:00)
 連載604.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー38 (2025-04-07 20:00)
 連載603.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー37 (2025-04-05 20:00)
 連載602.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー36 (2025-04-03 00:00)
 連載601.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー35 (2025-03-31 20:00)
< 2025年04月 >
S M T W T F S
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
過去記事
QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 1人
プロフィール
石上 扶佐子
石上 扶佐子