連載550.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー①糸が語る波多臥雲辰致ー15

連載550。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー15 

 三月の初めに、新発明の機械を持って、辰致さまが波多に来られた時、三溝の武居美左雄さんが、東京の正彦さんに、そのことを知らせたので、正彦さんは中村正直先生の英学校『同人社』の休みを繰り上げて、急ぎ波多村に帰ってきました。
 なぜならば、臥雲辰致の新発明の機械が世に知られる前に、武居正彦さんには、どうしてもしなければならない志(こころざし)があったのです。
 東京から信州波多村へ到着した正彦さんは、三溝の実家に荷物を置くとわらじの紐もそのままに、急いで上波多の川澄家まで足を運び、辰致さまに会い来ました。
 まず、機械の実物を見に土蔵へ行き、辰致さまが実際に糸を紡ぎながら、機械の説明をしたようです。
 夕餉の時間でしたので、土蔵から出て来た正彦さんにも母屋に上がってもらい、食事を共にしました。父や私への挨拶もそこそこに、正彦さんは辰致さまに切り出しました。
 「二年まえの正月に、中村正直先生が訳したスマイルズの『西洋立志伝』を携えて、帰農したばかりの臥雲さんを岩原にお尋ねした折、前年の暮れに出来上がったばかりの機械をみせてもらい、私は大そう感動しました。ここに日本のアークライトがいる、と。
 アークライトは極貧にもめげず、自動紡績機械を完成し、特許を取得して後の事業に繋げ、イギリスを豊かにしたのです。同じ年にジェーズ・ワットも蒸気機関の発明で特許を取っています。
 私は二年前に雪に閉じ込められた岩原の寺跡の家で、生まれたばかりの臥雲さんの機械を見た時、感動と同時に私がすることが明確に浮かびました。
 まずこの機械の特許を取り、臥雲さんを経済的に支え、その後この機械を世に知らしめる、ということです」

 (次回、連載551に続く。
 写真は、静岡の従妹から届いた、クリスマスの手作りシュトーレンとクッキーとワイン。彼女はステンドグラスの作家さんでもあるから、プレゼントもアーティスティックです。ありがと!)

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