連載555.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー20
2024/12/26
連載555。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー20
(正彦が書いてくれた草稿に目を通すと、辰致は急いで岩原に帰っていきました)
辰致さまがいなくなって数日した頃、父の河澄東左が、正彦さんが書いた「専売特許願い」の草稿を持ってきて、
「ほれ、糸、お前もこれを読んでみまっしょ。臥雲さんと正彦さが何をしたいだかが分かるじ。お前の読解力の試験にもなるずら。
読んでみればわかることだが、専売特許の制度がないのに、専売特許を申請するのだから、それはそれは勇気と情熱と気遣いのいることだいね」と言いました。
あら、まぁ、糸に読ませてくれるなんて。びっくりです。
でも、糸も興味がありましたので、漢字ばかりがやたらと多い、二十七行の漢字読み下し文に挑戦したのです。わからない漢字、熟語はありましたが、おおよそ、こんなことが書いてありました。
『臥雲辰致が謹んで思いますに、皇運が興起すれば、都も地方も文化に浴し、億兆の精霊はたちまち潤い、すこやかさが確かなれば自主を保ち、優しさが保たれた世にあっては自由を安んじます。このような慈愛を受け入れない人はいないでしょう。
私たちは愚昧の民かもしれませんが、しばしば欧米各国の説話を聞き、敏ではなくとも個人的に、粉骨砕身思慮を巡らし、一つのことを発明しました。
それは、人力を省く器械を造り、国の開花に応えようと心を尽くし、精を労し、月を積み月を重ね、ようやく、足袋底に用いる太糸を製する機械を落成したのです。
この機械はおよそ二十五貫目(94キロ)の重さで、これに水車をつなぐと、一人の婦人が一日に三十抱(ほう)の綿を紡ぐことができます。
このように計算すると、普通の水車で、大量の綿糸を作ることができます。
(次回、連載556に続く。
Merry Christmas !!!
みなさん、クリスマスおめでとございます!!!
一日遅れ、ニューヨーク時間のご挨拶になりましたが。
感謝しつつ、希望を共にしつつ)
(正彦が書いてくれた草稿に目を通すと、辰致は急いで岩原に帰っていきました)
辰致さまがいなくなって数日した頃、父の河澄東左が、正彦さんが書いた「専売特許願い」の草稿を持ってきて、
「ほれ、糸、お前もこれを読んでみまっしょ。臥雲さんと正彦さが何をしたいだかが分かるじ。お前の読解力の試験にもなるずら。
読んでみればわかることだが、専売特許の制度がないのに、専売特許を申請するのだから、それはそれは勇気と情熱と気遣いのいることだいね」と言いました。
あら、まぁ、糸に読ませてくれるなんて。びっくりです。
でも、糸も興味がありましたので、漢字ばかりがやたらと多い、二十七行の漢字読み下し文に挑戦したのです。わからない漢字、熟語はありましたが、おおよそ、こんなことが書いてありました。
『臥雲辰致が謹んで思いますに、皇運が興起すれば、都も地方も文化に浴し、億兆の精霊はたちまち潤い、すこやかさが確かなれば自主を保ち、優しさが保たれた世にあっては自由を安んじます。このような慈愛を受け入れない人はいないでしょう。
私たちは愚昧の民かもしれませんが、しばしば欧米各国の説話を聞き、敏ではなくとも個人的に、粉骨砕身思慮を巡らし、一つのことを発明しました。
それは、人力を省く器械を造り、国の開花に応えようと心を尽くし、精を労し、月を積み月を重ね、ようやく、足袋底に用いる太糸を製する機械を落成したのです。
この機械はおよそ二十五貫目(94キロ)の重さで、これに水車をつなぐと、一人の婦人が一日に三十抱(ほう)の綿を紡ぐことができます。
このように計算すると、普通の水車で、大量の綿糸を作ることができます。
(次回、連載556に続く。
Merry Christmas !!!
みなさん、クリスマスおめでとございます!!!
一日遅れ、ニューヨーク時間のご挨拶になりましたが。
感謝しつつ、希望を共にしつつ)