連載555.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー20

連載555。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー20 
 (正彦が書いてくれた草稿に目を通すと、辰致は急いで岩原に帰っていきました)

 辰致さまがいなくなって数日した頃、父の河澄東左が、正彦さんが書いた「専売特許願い」の草稿を持ってきて、
 「ほれ、糸、お前もこれを読んでみまっしょ。臥雲さんと正彦さが何をしたいだかが分かるじ。お前の読解力の試験にもなるずら。
 読んでみればわかることだが、専売特許の制度がないのに、専売特許を申請するのだから、それはそれは勇気と情熱と気遣いのいることだいね」と言いました。
 あら、まぁ、糸に読ませてくれるなんて。びっくりです。
 でも、糸も興味がありましたので、漢字ばかりがやたらと多い、二十七行の漢字読み下し文に挑戦したのです。わからない漢字、熟語はありましたが、おおよそ、こんなことが書いてありました。

 『臥雲辰致が謹んで思いますに、皇運が興起すれば、都も地方も文化に浴し、億兆の精霊はたちまち潤い、すこやかさが確かなれば自主を保ち、優しさが保たれた世にあっては自由を安んじます。このような慈愛を受け入れない人はいないでしょう。
 私たちは愚昧の民かもしれませんが、しばしば欧米各国の説話を聞き、敏ではなくとも個人的に、粉骨砕身思慮を巡らし、一つのことを発明しました。
 それは、人力を省く器械を造り、国の開花に応えようと心を尽くし、精を労し、月を積み月を重ね、ようやく、足袋底に用いる太糸を製する機械を落成したのです。
 この機械はおよそ二十五貫目(94キロ)の重さで、これに水車をつなぐと、一人の婦人が一日に三十抱(ほう)の綿を紡ぐことができます。
 このように計算すると、普通の水車で、大量の綿糸を作ることができます。

 (次回、連載556に続く。
 Merry Christmas !!!
 みなさん、クリスマスおめでとございます!!!
 一日遅れ、ニューヨーク時間のご挨拶になりましたが。
 感謝しつつ、希望を共にしつつ)

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