連載470。小説『山を仰ぐ』第7章・臥雲辰致の誕生―③結婚と別れー15
 (新発明の機械を水車で動かしたい辰致に、正彦から手紙が届き、「一度波多に来て、機械の話をするように」とのことでした。語りはキヨ)

 タッチさが波多へ向かった日、キヨも納次郎もタッチさと一緒に岩原を出て、南に進むことになった。
 タッチさの発案で、たまには三人で楽しく歩こう、ということになったのせ。
 途中、堀金の俊量さまに会い、小多田井の横山家へ寄ってタッチさと納次郎の父さまと母さまに会い、さらに帰途には大妻のキヨの実家に寄ってキヨの父さんと母さんに挨拶をしよう、というのだった。
 この度のタッチさの主要な用件は、上波多村の河澄東佐さんに会うためだが、その前に、道すがらの三溝村の武居家に寄って、正彦さんの父上と合流する必要があっただいね。
 岩原から三溝までは五里で半日の行程だが、寄り道が沢山あるから、着くのは夕方になりそうだった。
 その日のタッチさの波多での用件を考えれば、朝に三溝についた方がよかったから、キヨはタッチさに言ったのせ。
 「堀金の俊量さまに会い、小多田井の横山の父さま母さまに会ってたら、三溝に着くのは遅くなるずら。キヨの大妻の実家は三溝の手前だもの、キヨの実家に三人で泊めてもらい、翌朝早くに、タッチさだけが三溝村の武居家と上波多村の河澄家へ行けばよいずら」と。
 キヨの実家へ手紙を書いて頼んだら、快く受けてくれて「御馳走もお土産も用意して、楽しみにして待っている」とのことだった。
 タッチさは言ったさ。
 「もし、糸紡ぎ機が売れたら、もし、測量機が売れたり、測量の手間賃で生計が立てば、キヨを嫁にしたいと思っているだから、その日のための前挨拶をしてこようかのう」
 キヨがどんなに嬉しかったか。
 その三人の道行きは、キヨの生涯で、最も楽しい旅になったのせ。

 (次回、連載471に続く。
 写真はクイズです。この素敵な人は誰でしょう?)

< 2024年07>
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石上 扶佐子
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