連載568.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー2

連載568。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー②開産社と博覧会ー2 
 (前回より、②開産社と博覧会が始まりました)

 明治五年の辰致さまは、岩原で、還俗生活を送りながら、糸紡機を製作し、測量器の発明もしていたようです。
 明治六年、河澄家の水車を見るために、初めて波多を訪ずれた辰致さまは、波多の衆に機械の説明をしています。開産社の前身の勧業社が、松本で設立されたのもこの年でした。
 明治七年、辰致さまは岩原から波多に通い、河澄家の山林や桑畑の多い土地を、くまなく測量しています。糸も手伝い、その時に辰致さまの仕事の丁寧さと正確さに驚きました。
 明治八年三月には、開産社の開所式があり、辰致さまは、糸紡機械の説明のために、岩原から波多や松本へ出向くことが多く、お忙しそうでした。この間、岩原で留守を守ったキヨさんも、身体を壊したのです。
 波多村の武居家と波多腰家と河澄家は、波多堰開削のことで力を合わせる仲間でしたから、武居さん父子から「河澄さんの水車を貸してほしい」との要請があった時、父の河澄東佐は答えました。
 「二月なら、水車を使ってもいいよ」と。
 極寒の二月は、梓川は氷で覆われ、水が流れていません。水が流れはじめれば、麦をひいたり、米をついたりの、水車を使う通常の業務があるのです。
 水車を使う春までに、設置した糸紡機をすっかり片づける約束で、「まだ時間の余裕のある二月なら、水車での試運転をしても良いよ」ということでした。 
 明治九年二月、ついに、糸の家の水車で、発明の機械の試運転が行われ、氷に覆われた水の流れない梓川で、辰致さまは水車を手で押し、機械を回わしたのでした。太糸紡機と布織機の二つの機械が、水車で動くことが確かめられたのです。

 (次回、連載569に続く。
 写真は、昨日の松本フォークダンスの例会。最高齢の深沢さん(写真中央)の、91歳のお誕生日を皆で祝いました)

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