連載561.小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー26

連載561。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー26 

 考案途中の布織機が波多に到着して、辰致さまは少し生気を取り戻したようでした。キヨさんがいないからこそ、考案中の機械が相棒として必要なのかもしれません。
 納次郎さんが岩原へ帰ってからは、辰致さまは各種の打ち合わせをこなし、大工さんに指示を出しながら、夜は布織機の完成に努力をしていました。
 明治八年の秋は瞬く間に進み、河澄家の食事時に、辰致さまが
 「秋の彼岸には、小多田井で墓に参り、尼寺のキヨにも会ってこようとおもいます」と言った時、私は、辰致さんのために、秋物の新しい作務衣を縫いましょう、と思いついたのです。
 男者の麻の反物がありましたから。ほら、裁縫の練習になるでしょう?。
 彼岸の前に、私の縫った縦じまの作務衣を着て、辰致さまは、嬉しそうに岩原へと帰って行きました。
 お盆に浴衣を作って送り出した時と同様、今回も、糸にはなんともいわれぬ満足感がありましたよ。
 「あの方は美しい方だから、その美しさを引き出す衣服の世話は、糸がしなければ」という思いでしょうか。
 それができた充実感は、幸福な思いと重なり、また、いくらでも衣類を作りたいような気持になるのでした。

 (次回、連載562に続く。
 写真は、小さな家族が声を合わせる、パッピバースディの歌。集合写真は、同じ玄関前の今と5年前で、家族が一人増えています)

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