連載579.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー13

連載579。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー②開産社と第一回内国勧業博覧会ー13
 (辰致の発明した機械は、開産社の展覧場に設置され、動態展示が始まりました。語りは糸。)

 展覧は新発明の機械を世に知らしめ、産業の振興のためには有意義です。しかし、連綿社の人たちが心配していたのは、
 「特許の制度も無い中で、機械の優秀さと構造が公表されてしまえば、模造品がでまわり、粗悪な模造品は、辰致さまの機械が広まるのを妨げるのではないか。
 また、知らない場所で、無許可な模造品がでまわれば、発明者の長年の労は報いられない」というものです。
 開産社に展示された機械を含め、これまでに複製された機械は、すべて波多の百瀬与市さんという大工さんにお願いしていたので、連綿社は、機械の秘密を守ってもらうために、大工の百瀬与市さんと、明治九年六月十八日、綿糸紡績機製作についての約定を交わしました。
 工場を稼働する準備をするとしたら、規模が拡大するにつけ、大工に機械を造ってもらうことになるので、今後、機械を造ってくれる大工にも、機械の秘密を守ってほしい、と言わなければなりません。
 連綿社は、同じ年の九月に、松本深志に住む大工、吉野儀重さんとも、秘密保持の役定書を交わしました。吉野さんは、今後、機械の製作を一手に引き受けてくれる予定の方でした。
 しかし、大工さんがいくら秘密にしてくれても、展示されているものをよ~~く見れば、模造品は作れるかもしれませんね。特許がない、ということは、そういうことを見逃さざるをえない、という大変不利なことなのです。
 もし、特許があっても、誰かがこっそり機械を造り、こっそり機械を動かし、作った糸をこっそり販売していたら、それは、機械を発明した者にはわからないことです。悩みの種は尽きないのでした。
 お金を借りての事業ですから、返済するために利益を出さなければなりません。しかし、事業というものは、どうも、なかなかに大変そうでございました。

 (次回、連載580に続く。
 紙類の整理をしていたら、何かの雑誌の一頁が出てきて、おぐらやま農場時代の家族の写真が載っていました。16年前で、孫たちが小さい! 私もいます)

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