連載584。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー②開産社と博覧会ー18 
 (キヨとの離縁が決まり、やつれた辰致が、正彦の父に伴われ波多の川澄家に戻ってきました)

 武居美佐雄さんは、父にも母にも私にも酒を注ぎ、最後に辰致さまの盃に徳利を傾けながら、話を続けました。
 「東京の正彦が、手紙でこう言ってきたのせ。
『キヨさんのことで沈んでいる臥雲さんには失礼かもしれませんが、臥雲さんと糸さんはお似合いではないでしょうか。
 お二人の気持ちもありますが、父さんに、二人の仲を取り持ってもらえないでしょうか』とせ。
 この件は、昨日、川澄の東佐さんにも母さまのツキさんにも相談しただよ。そしたらせ、二人とも大賛成だったさ。
 本人たちの気持ちは、まだ聞いてはいないだがな」
 糸は、武居さまの話の意味を聞き取ろうと必死で耳を傾けていた時、びっくりな言葉が飛び込んできて、まことに、びっくりでした。 なんで、また、突然に。それも、こんな時期に、、、、。
 糸は一瞬、怒りにも来た気持ちが湧きましたが、すぐに、悪い話ではない、、、、、と思いました。
 糸に男の兄弟が生まれなかったこともあり、また、正彦さんに洗馬からの嫁取りの話がどんどん進んだこともあり、正彦さんは、糸と結婚できなかったことで、糸の将来を心配していたのかもしれません。正彦さんの気持ちを、ありがたいと思ったことでした。
 父の川澄東左が口を挟みました。
 「さすが正彦君だ。こんな時期に、よう言うてくれたさ。
 わしは、初めっから、そう願っていただもの、ありがたいことせ。
 できれば、臥雲さんが婿に来てくれて、川澄の分家を作ってくれたら、こんなにありがたいことはないだが、、、、。本人たちは、どうだかやぁ」
 本人たち、と言われても、そりゃ、辰致さまが先だいね。辰致さまはどう思うだかやぁ。糸は押し黙っていました。
 
 (次回、連載585に続く。
 今朝は-8℃になった寒い朝、城東地区ひろばの「シネマの会」で『佐賀のがばいばあちゃん』の上映がありました。原作も良かったけれど、映画も良かったです。身につまされる場面も多くて)

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石上 扶佐子
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