連載573.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー7

連載573。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー②開産社と第一回内国勧業博覧会ー7
 (話題になっている新発明の糸紡機を、松本開産社は、松本に置きたいと、波多の衆に相談しています。) 

 開産社の役員衆の話は続きます。
 「だでね、開産社としても『波多の衆の協力のもと、松本で産業を起こしたい』ということになったのせ。
 県は急いでいるだから、『開産社としては、まずは家屋を整えて準備をせねばなるまい』ということで、矢継ぎ早に、いくつもの工事や予算の提案をしただいね」
 開産社の本社に呼ばれた下波多の波多腰六左さんは、開産社から、こんな意向を聞かされました。開産社は、さらに、六左さんに詰め寄って言ったのです。
 「開産社としては、まず、臥雲さんが発明した細糸紡機と布織機を、開産社の展示場に展示し、動態展示の準備ができたら、水車場と展覧場の両方で、糸紡ぎと布織りの実際を始めたい。
 だで、波多の衆が作る予定だった会社を、開産社内に作って、松本で産業を開始してほしい。
 その場合、工場として、払い下げられた開産社内の建物を賃貸する。水車も使ってよい。でも、水車を覆う水車小屋は、波多衆の新会社で建てて欲しい。開産社は出資と、展覧場係や女工を工面すすることで応援したいだ」と。
 開産社からのそのような意向を聞いた波多腰六左さんは、急ぎ波多の衆を集めて、寄り合いを開きました。
 父河澄東左から聞いたところによると、波多村でのその寄り合いでは、
 「波多で紡績や布織物ができないのは残念だが、開産社の助けもほしいなら、仕方あるめえか」
 「川澄さんの水車小屋を増築する計画は、川に面する土地がデコボコしてるで面倒があるずら、開産社にある水車を利用するなら、女鳥羽川は川岸が整備されているから、仕事場としては適しているだ。ゆくゆく、水車を増やす事も出来るべ」
 「工場も今あるのを貸してもらえるなら、建てなくてよいしな」
 「原料の綿もどうせ松本で買うだから、町中の方が、商売は便利かもしれん」
 「北深志六九といえば、なんといっても、県の本庁がある松本の一等地だもの」
ということに落ち着いたのだそうです。

 (次回は、連載574に続く。
 写真は、最新号の長野県フォークダンス連盟の会報です。写真が楽しい雰囲気を良く表しています。作っているのは、松本フォークダンスの中嶋順子先生。巻頭の文も松本市内の方です。)

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