連載570.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー4

連載570。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー②開産社と博覧会ー4
 (明治九年に波多の河澄家の水車で、新発明の糸紡機が試運転に成功したことを、信飛新聞が伝えました。語りは糸)

 二月二十九日の信飛新聞掲載時の計画は、波多で機械を増やし、綿糸と綿布を量産することで、辰致さまも波多の者も皆、新しい機械は波多で稼働させるものと思っていました。
 しかし、事態は思いがけない方向に進むことになったのです。
 川澄の水車を使って、太糸紡機の試運転をした直後の明治九年三月、辰致さまは細糸紡機を完成させました。
 細糸紡機は、非常に有効な機械です。輸入した西洋式機械で製造した綿糸や、輸入綿布に対抗するためには、細糸紡機はなくてはならない技術で、この機械の成功は、日本の国にとっても、重大な出来事でした。
 細糸紡機を完成した辰致さまも、事業を担当する波多腰六左さんも、官との連絡を受け持つ武居美左雄さんも、細糸紡機の重要さを知っていたので、一刻も早く国の役に立ちたいと、県の役人に、この機械を観てもうことを要請しました。
 時の政府は、殖産興業の旗を掲げ、役立つものを保護奨励し、かつ安価で効率の良い手回し紡績機を探していましたから、筑摩県は、直ちに二人の役人を波多に派遣し、水車と連結した細糸紡機と、綿布織機をつぶさに調べていったのです。
 この時、筑摩県から派遣された役人は、県庁での役職を持ちながら、開産社の社員も兼ねていた、川井保厚さんと杉浦義方さんでした。
 波多へ赴いた二人は、二つの機械を「従来のものと比べ、非常に優れたものである」と評価し、松本の開産社に出品することを勧め、斡旋の労も取ってくれたのです。

 (次回、連載571に続く。
 写真の主役は、手前の赤いノートパソコンです。15年前の昨日、秋田で。私が初めてノートパソコンを持った日で、娘からのプレゼントでした。
 この頃娘は、責任ある仕事をこなしながら、二人の幼児をワンオペで育てていて、ずいぶんと大変だったようです。でも、母親の私は、そのことにあまり気づいていませんでした。今思うと、申し分けなかったな、可愛そうだったな、と。
 15年後の今、彼女は、とても幸せになりました。私も、ほんとに嬉しい)

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