連載415.小説『山を仰ぐ』第6章の③ー7

連載415 小説『山を仰ぐ』第6章・幕末から明治維新へー⓷廃仏毀釈と安達達淳ー7 
(前回に引き続き、語りは大町の安達和尚、聞き手は俊量尼)

 安達和尚さまは、さらにしみじみと言われました。
 「なあ、俊量、なくてもいい寺もあるかもしれねえな。今じゃ、俗物坊主も多いかもしれねえ。しかし、仏教というものは、ほんとは素晴らしい価値のあるものぞ。
 人間に芯がはいるためにも、この世が戦さなしに安寧で暮らすためにも、上に立つものが慈悲の心を培うためにも、仏教はなくしてはならねえ。
 それを知っている人が少ないのが問題だじ。
 なあ、俊量、お前は、わかっとるだかや」
 あら、大変、御鉢がわたくしに廻ってきました。わたくしは咄嗟にこんな返事をしてしまいましたよ。
 「わたくしは、ちょっと怪しいですが、安楽寺下の弧峰院の智恵さまなら、解っておいでだと思います」
 「そうか、そうきたか。
 なれば、これから、まず、智恵のところに行って、このことを伝えよう。
 智恵も驚くずらなあ。智恵はこれから、どうするだかや。
 安楽寺に残った僧たちだってせ、今頃は大騒ぎずら。先頭の智順和尚が消えたのだもの。僧侶たちは、右往左往だじ。皆はいったい、どうするだかや、、、、。
 いやいや、その前にせ、俊量や、おまえはどうするだか」
 戸田の殿さまが安楽寺の智順和尚さまに命じたことは、まだ内々のことでしたので、しばらくは、智順和尚さまが行脚の旅に出たことも内々にされておりました。
 安楽寺の僧侶や、末寺の智恵さまやわたくしたちも大騒ぎはぜず、世の成り行きを見ながら、これから自分はどうするかを、それぞれがさぐっているという日々が続いたのでございます。

 (次回、連載416に続く。
 写真は、今日、松本市やまびこ道路沿いの歩道に咲いていた福寿草です)

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