連載616。第9章・栄光と事業の困難ー①再婚と天皇の天覧ー3 
 (前回は。連綿社の頭取で波多堰開削に尽力した波多腰六左が河澄家を訪ずれ、辰致と糸の縁談を進めたいと言いました)

 父の河澄東左は、むっつりしておりました。縁談の話は、もともと、去年の六月に辰致さま本人から直々に断られて、へそを曲げているところに、この話は娘を政略結婚の道具みたいに考えてけしからん、というのが本音ではなかったでしょうか。
 でも、もっと本音は、辰致さまが糸の婿に来てくれて、糸と婿が分家をし、河澄の本家を支えて欲しい、という願いですから、父としても、むっつりしている他なかったのかもしれません。
 父が苦虫を噛みつぶした顔で口を開きました。
 「臥雲さんは、日本一の賞を取って優秀だってことが証明されただから、、河澄家の婿になってくれるなら、そいでもかまわんが、、、」
 糸は可笑しくて吹き出しました。父さん、まだ、そんなこと言ってんだかやぁ。
 ならば、糸としても、言っておきたいことがあります。六左さん、父さん、良く聞いてくださいよ。糸は女で若輩者ではありますが、エッヘン、という気分で口を挟みました。
 「波多腰さま、縁結びの話、ありがたいだじ。
 糸としては、このお話を進めてほしいと思うだが、その前に一言いわなきゃならないのせ。
 波多腰さまに言いたいことは、もし糸が辰致さまと夫婦になれたとしても、重しになれるかどうかはわからない、ということせ。重しにはなれんでないかな。妻子が波多にいるとしても、辰致さまはあちこちするずら。糸はなるべく波多にいるつもりだけどな。
 父さんに言いたいことは、辰致さまは、たぶん河澄の婿にはならないずら。糸はそれでもいいだから、『婿に入らないなら結婚はいかん』とは言わんで欲しいのせ。
 父さんは、辰致さまに『婿に入って欲しい』と頼んでもいいだが、辰致さまがいやなら、仕方ないと思ってほしいだじ。頭の良い気立てもよい子をようけい作るから、その子を河澄の養子にして分家させてもいいずら。すぐに、次の代ができるだもの」

 (次回、連載617に続く。
 写真はできたてほやほやの、おぐらやま農場のシードル6種。無施肥かつ過激に減農薬の、とびきりさわやかな味わいでした)

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石上 扶佐子
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