連載612.小説『山を仰ぐ』第8章発明家ー②開産社と博覧会ー46

連載612。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー②開産社と博覧会ー46 

 第一内国博覧会の出品物は、国別に競い合ったウィーンの万国博覧会を真似て、同じ館の出品物は県別に陳列され、県別に競い合うようになっていました。産業振興のために、入場者にも出品物の比較を促し、何が一等か、何が二等かは、大問題であり、注目の的だったのです。
 そして、ついに、十一月二十日に、賞牌授与式を迎えました。 
 総出品数八万四千三百五十二点中で、受賞者は五千九十六人、賞牌や褒状が出品数の三割を占めていたのは、この博覧会が物品調査と産業奨励を兼ねていたからです。
 博覧会顧問として、各産業の批判をおこなったワグネルが、大分な博覧会報告書の中で、臥雲辰致のガラ紡について、このような発言をしました。
 「臥雲の機は、余をもって本会第一の好発明となす。
 氏が初めてこの機械を案出して以来、数年を費やして様々に改良し、ついに、この実効を奏するにいたれり。
 この装置の特色は、綿を綿筒に詰めて回転させ、糸巻の引力によって自然に糸を引き出すにある。
 この会に出品された綿紡機をみると、ほとんどが糸を引き出す仕掛けを別に設けていて、臥雲機のような綿筒の装置はない。
 臥雲機は極細糸を作るには堪えないが、この数回の行程を省く仕掛けの能力は、欧米の機械に並ぶものがない、といっても過言ではない。
 歯車の配置がやや少なく、速度は遅いいようだが、もっとも主要な装置は、きわめて簡潔といえる」と評価しました。 
 臥雲辰致のガラ紡の真髄を掴み、「欧米の機械には並ぶものがない」と見抜いたのはワグネルの慧眼で、日本人の審査委員たちは、ガラ紡の真髄は理解していないようでした。
 しかし、審査の結果は、なんと、臥雲辰致のガラ紡が、この博覧会の最優秀賞に決まったのです。鳳紋(ほうもん)賞は最高の栄誉でした。
 英文の出品目録では、 英語表記で、「GAUN TOKIMUNE. Cotton spinning machine.(1).」と記載されました。

 (次回、連載613に続く。
 写真は、おぐらやま農場主松村暁生さんが、安曇野市議会議員増田望三郎さんの応援誌に寄稿したもの)

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