2025/04/13
連載607。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家-②開産社と博覧会ー41
(連綿社の役員からの危惧の声を、辰致は正彦から聞きました)
そこで二人は、心配している人たちを安心させ、説得するために「連綿社条約」なるものを作ることにしました。二人で考え、正彦さんが草稿を作ってくれたのです。それは、こんな条約でした。
「 『連綿社条約』
第一条。 発明というものは、本来的に頭の中にあるものを、現実としてを製造するものなれば、初めより、確固とした目標を見据えることは難しい。しかし今我々は、心を合わせ、共に永遠の幸福を謀(はか)り、さらに、国益の一端を為(な)さんとする同志として集まった。
ゆえに、会社の未来の成功はもちろん、個人個人の上に何らかの事情が生じようとも、それを会社に及ぼすことなく、規則を守り、臨時の件は衆議討論を踏み、間違った方向に進むことなく、節約を守り、誠実に落ち着いて、協力和睦を旨とし、常に変わることなく、相共に、会社の発展を誓う。
第二条。 太糸機械五個を迅速に整備し、発明人並びに社員の中より一名を選挙して、百般の事務を管理し、会計を明細帳へ記載し、集会の時々には必ず、皆が熟読すること。諸経費は、判取り帳、出納帳等へ詳細を記載し、計算は判然とすること。
第三条。 太糸機械五個を整備した後は、毎月末に計算し、その利益は、発明員並びに社員三名、合計四名へ平等に割り振ること。
臥雲氏は発明の偉功はあるが、機械が今日の勢いに至るまでは、その経費は莫大で、それらすべてをこの社員三名が出費した辛苦功労も大きいからである。
さらに、この度、東京内国勧業博覧会へ、細糸機械を出品については、その機械の製造費用はもちろん、臥雲氏や機械運転の人夫等の、博覧会期限までの在京中の雑費、往復の旅費に至るまで全て、社員三名にて出費するので、今後、国が、この機械を有益の物と詮議し、専売特許等の許可を受けたなら、利益が出た分は、発明者と社員の区別なく、公平に分配すること。
(次回、連載608に続く。
写真は水曜日の松本城夜桜会にて)
(連綿社の役員からの危惧の声を、辰致は正彦から聞きました)
そこで二人は、心配している人たちを安心させ、説得するために「連綿社条約」なるものを作ることにしました。二人で考え、正彦さんが草稿を作ってくれたのです。それは、こんな条約でした。
「 『連綿社条約』
第一条。 発明というものは、本来的に頭の中にあるものを、現実としてを製造するものなれば、初めより、確固とした目標を見据えることは難しい。しかし今我々は、心を合わせ、共に永遠の幸福を謀(はか)り、さらに、国益の一端を為(な)さんとする同志として集まった。
ゆえに、会社の未来の成功はもちろん、個人個人の上に何らかの事情が生じようとも、それを会社に及ぼすことなく、規則を守り、臨時の件は衆議討論を踏み、間違った方向に進むことなく、節約を守り、誠実に落ち着いて、協力和睦を旨とし、常に変わることなく、相共に、会社の発展を誓う。
第二条。 太糸機械五個を迅速に整備し、発明人並びに社員の中より一名を選挙して、百般の事務を管理し、会計を明細帳へ記載し、集会の時々には必ず、皆が熟読すること。諸経費は、判取り帳、出納帳等へ詳細を記載し、計算は判然とすること。
第三条。 太糸機械五個を整備した後は、毎月末に計算し、その利益は、発明員並びに社員三名、合計四名へ平等に割り振ること。
臥雲氏は発明の偉功はあるが、機械が今日の勢いに至るまでは、その経費は莫大で、それらすべてをこの社員三名が出費した辛苦功労も大きいからである。
さらに、この度、東京内国勧業博覧会へ、細糸機械を出品については、その機械の製造費用はもちろん、臥雲氏や機械運転の人夫等の、博覧会期限までの在京中の雑費、往復の旅費に至るまで全て、社員三名にて出費するので、今後、国が、この機械を有益の物と詮議し、専売特許等の許可を受けたなら、利益が出た分は、発明者と社員の区別なく、公平に分配すること。
(次回、連載608に続く。
写真は水曜日の松本城夜桜会にて)