連載620.小説『山を仰ぐ』第9章栄光と事業の困難―①再婚と天覧天覧―7

連載620。小説『山を仰ぐ』第9章・栄光と事業の困難ー①再婚と天皇天覧ー7 
 (半年ぶりに松本に戻った臥雲辰致は、縁談の返事をするために、河澄家へ向かいました)

 河澄の家では、糸を頭に四人の姉妹が、今年こしらえてもらった新しい着物を着、正月用の帯をしめ、かるた取りに興じてはしゃいでいたところでした。
 長男の琢吉も、年が明けて九歳になり、正月の正装をすれば次期当主の貫禄を多少は感じさせます。琢吉の下に生まれた二人の妹はまだ小さいながら、正月が何かはわからずとも、晴れ着を着れば嬉しくて、家の中は華やいでいたのでございます。
 年が明けて糸は二十四になりました。辰致さまは糸より十三歳年上ですから、三十七歳でしょう、などど思っていたところへ、辰致さまと波多腰六左さんがお見えになったので、まあ、ほんとに、びっくりでした。
 こののん気な糸でさえ、胸が早鐘のようになり始めたのは、朝からお祝い酒のお屠蘇をいただいていたからででしょうか、それとも、ついに、縁談のご返事を聞くことになるからでしょうか。
 河澄家の客間に、父と母と私が並んで、波多腰さまと辰致さまを迎え、まずは正月の挨拶をし、それから波多腰さまが切り出しました。
 「わしは、臥雲さんが東京にいるうちから、手紙を送って糸さんとの縁談を勧めていただが、返事がなかなかもらえなんだ。臥雲さんは忙しかったし、考えるところもあっただいね。
 それが今日、正月の挨拶にうちへ来て、わしは返事をきいたのせ。臥雲さんの思うところは多少複雑だでね、まずは何をさておき、ここへ伺ったわけせ」
 波多腰六左さんはそういうと、辰致さまを見て発言を促し、辰致さまは、軽く会釈をして、話し始めました。

 (次回、連載621に続く。
 写真は、7年前と6年前の連休で遊びに来た少年が、今高校2年生になり、家業の果樹園で新発売になったシードルのラベルをデザインした、というお話。素敵なラベルねっ‼️)

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