連載508.小説『山を仰ぐ』第7章ー③結婚と別れー53

連載508小説『山を仰ぐ』第7章・臥雲辰致の誕生―③結婚と別れー53 

 二日目の夕方、波多を出て帰路を北へ向かったタッチさは、小多田井の実家を通り越して、いの一番に堀金を目指し、深夜に尼寺に着いた。波多から五里の道のりを、脱兎のごとく駆けてきたずら。キヨが心配だったのずら。キヨもうれしかったさ。ありがたいことせ。
 タッチさは言った。
 「キヨが泣いてないでよかったじ。キヨの顔をみたら安心したさ。これから小多田井の実家に行って泊めてもらうべ。明日、納次郎と一緒にまた来るでな」 
 その夜は、タッチさがいなくても、キヨは良く眠れたじ。
 翌朝、俊量さまは、くすくすと笑いながらまた言ったさ。
 「仏さまがキヨを守っているからですよ。わたくしがお祈りして、よくよく頼んでいるのですもの」
 そこへタッチさと納次郎が小多田井からやって来た。タッチさは言った。
 「キヨの顔色が良くてうれしいさな。
 さあ、これから、三人で岩原へかえるべ、という予定だがな、その前に、キヨと納次郎に相談したいことがあるだ。どうか、俊量さまもそのまま、そこにいてくだされ。
 一昨日と昨日、波多の主だった方々が集まってくれて出た話は、こういうことだ。
 以前正彦さんの手紙で、勧業社の設立を知らせてもらったじ。あれが名前だけ変えて去年の末に開産社になっただと。その開産社が、三月十五日に筑摩県の出資者を集め、松本の本社で大々的に開所式をするのだと。
 波多からも武居美佐雄戸長を初め幾人かが参加するだが、波多では、私の機械による産業を起こしたい、ということで、私にも参加してほしいということになったのせ。
 さらに、その前に、私の発明した機械をまず波多で実際に見たい、ということになって、できるだけ早く、機械を岩原から波多に運んでもらえないか、とせ」

 (次回、連載509に続く。
 父と娘のお宝ツーショット4枚、2024年7月と、2021年12月と、2022年1月が2枚。)

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