連載363。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―②俊量が語る青年栄弥―25
 (前回は、栄弥は孤独の内に新機械を生み出さなければならなかったこと、など) 

 十四歳の終わりに、竹筒の回転による糸撚(よ)り専門器と糸巻き専門器を同時に動かすことに成功した栄弥さんは、その後、二台を連結して一つの動力で動かすことに腐心してきました。それは、思いもよらぬ難事業でした。
 昼間は、外回りの仕事がありました。廻る農家は年々増え、その頃には、横山家は足袋底問屋も兼ねるようになっていたので、扱う糸の量も飛躍的に増え、栄弥さんの仕事の量も増えていたのです。 
 栄弥青年は、身体も大きくなり、力も増し、要領もよくなって、外回りの仕事も精力的にこなしていました。しかし、栄弥さんのやりたい本当の仕事は、機械を作り出すことですから、昼の仕事の後の、夜の時間が勝負の日々でした。
 横山の父さまも母さまも、栄弥さんの機械作りは応援していましたけれど、昼の仕事も大切でしたから、「身体こわさねぇように、ええから加減にしておけよ」と言っていましたね。
 でもね、栄弥さんは、そのええから加減ができないのですよ。もう、夢中で、のめり込んでいきますからね。
 わたくしどもの弧峯院に来るのは月に二度、外回りが休みの日の翌日ですから、一日中機械に夢中になっていた翌日です。ぐったりしていることもありました。
 「元気だしましょ」と声をかけると
 「あんべが悪い(体調が良くない)」と答えることもありました。

 (次回、連載364に続く。
 今日は市長記者会見の日でした)

< 2022年10>
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石上 扶佐子
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