連載370。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―②俊量が語る青年栄弥―32 
 (前回、起き上れなくなった栄弥の病は思ったより深刻でした。栄弥の代わりに初めて俊量の弧峯院を訪れた、栄弥の父儀十郎の言葉です)
  
 栄弥は、随分沢山の仕事をしていただいね。任せきりだったでね、気づかなかったけどせ。随分頑張っていたのせ。おらには、とても無理だ。家に来てくれている屈強の男衆と交代でも、とてもやりきれねぇ。
 それに、栄弥は、駆け足で農家を回り、少しでも早く帰って、家で機械をいじっていたでね。夜も眠らんとせ。
 おらたちは、皆で、言ったのせ。
 「そんな、あてにもならんことで、疲れるのはよせ」ってせ。
 「お前が十四の時に作ってくれた機械で充分でねえか」とね。
 ありゃ、今でも役にたっているでね。
 でもせ、そうはいかねぇのせ。栄弥の性分だもの。外回りを脱兎のごとくやり終えて、どうしても、もっと楽で早い機械を作らずにはいられねかったのせ。
 十四の時の機械と比べたら、今回作ったのは各段に立派だじ。大工に作ってもらっただけのことはある、大きくて、滑車が沢山付いていて、アチコチが廻り、複雑なものだじ。何がどうなっているかは、おらたちにはわからねえけどせ。
 栄弥はせ、十四の時の機械は、玩具みたいだったと言ったのせ。栄弥にはそう思えるほど、今度の機械は大きくて立派だじ。
 でもせ、もう、あきらめろ、と言っているだ。作り手が動けなくなってしまっただから、それしかあるめ」

 (次回、連載371に続く。
 今日は市長記者会見の日でした)

< 2022年10>
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石上 扶佐子
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