2024/12/24
連載554。小説『山を仰ぐ』第8章・発明家ー①糸が語る波多の臥雲辰致ー19
(機械を持ち波多に来て、半月を忙しく過ごした後、松本まで機械を見せに行って帰ってきた辰致は、疲労困憊でした)
父の河澄東左は重ねて言いました。
「今日、岩原にお帰りになるとしても、なるべく早く、また波多へ戻って来て欲しいだいね。
波多の寄り合いでは、臥雲さんの機械を使って、できれば水車で、木綿糸を量産することが決まっただもの。これからは、その事業がはじまるだから。開産社の事業として、波多で稼働できればと思っているだ。
そして、次に来るとき、是非、木綿布織機も持ってきてほしいだじ。まだ発明途中でもいいだでね。
その前に「専売特許願い」も申請せにゃならんね。武居美佐雄さんの話だと、松本の筑摩県本庁で受け付けてくれそうだと」
辰致さまは、正彦さんが書いた草稿を読み初めました。
それは、漢文に小さなカタカナの文字が挿入された読み下し文で、一行に二十数文字の字列が二十七行も連なった長い文でした。正彦さんが薫陶を受けた平田派は、漢文の読み下し文で学問をしていたそうですから、お得意のことだったのでしょうね。
正彦さんが書いた「専売特許願い」の草稿を読み終えると、辰致さまは言いました。
「ありがたいことです。正彦さんの思いが良く伝わってきます。私の思いと同じですが。
私はこの文をよく検討し、清書をして、松本の県庁に提出に行かねばなりません。が、今はまず、岩原に帰ります。
特許の申請は急がねばなりませんから、なるべく早く、布織機を持って波多に戻るつもりです。この件は、波多に戻ってから進めます。
すみませんが、それまで、河澄さまで預かっていただけませんか。東佐さまにも読んでいただきとうございます」
辰致さまが、半月ぶりに岩原に帰って行かれたのは、その日の夕方のことでした。
(次回、連載555に続く。
昨夜は「柏原フォークダンスの会」のクリスマスパーティでした。
童話の中のような、夜のひなびた踏み切りを渡ると、北へ進む道は森へと続いているようで、その暗い森の中に、突然、明るく輝く広場が出現。
お伽の国のダンスホールで、全40曲を踊り、帰途につくと、外は小雪が舞う、幻想的な白い世界でした)
(機械を持ち波多に来て、半月を忙しく過ごした後、松本まで機械を見せに行って帰ってきた辰致は、疲労困憊でした)
父の河澄東左は重ねて言いました。
「今日、岩原にお帰りになるとしても、なるべく早く、また波多へ戻って来て欲しいだいね。
波多の寄り合いでは、臥雲さんの機械を使って、できれば水車で、木綿糸を量産することが決まっただもの。これからは、その事業がはじまるだから。開産社の事業として、波多で稼働できればと思っているだ。
そして、次に来るとき、是非、木綿布織機も持ってきてほしいだじ。まだ発明途中でもいいだでね。
その前に「専売特許願い」も申請せにゃならんね。武居美佐雄さんの話だと、松本の筑摩県本庁で受け付けてくれそうだと」
辰致さまは、正彦さんが書いた草稿を読み初めました。
それは、漢文に小さなカタカナの文字が挿入された読み下し文で、一行に二十数文字の字列が二十七行も連なった長い文でした。正彦さんが薫陶を受けた平田派は、漢文の読み下し文で学問をしていたそうですから、お得意のことだったのでしょうね。
正彦さんが書いた「専売特許願い」の草稿を読み終えると、辰致さまは言いました。
「ありがたいことです。正彦さんの思いが良く伝わってきます。私の思いと同じですが。
私はこの文をよく検討し、清書をして、松本の県庁に提出に行かねばなりません。が、今はまず、岩原に帰ります。
特許の申請は急がねばなりませんから、なるべく早く、布織機を持って波多に戻るつもりです。この件は、波多に戻ってから進めます。
すみませんが、それまで、河澄さまで預かっていただけませんか。東佐さまにも読んでいただきとうございます」
辰致さまが、半月ぶりに岩原に帰って行かれたのは、その日の夕方のことでした。
(次回、連載555に続く。
昨夜は「柏原フォークダンスの会」のクリスマスパーティでした。
童話の中のような、夜のひなびた踏み切りを渡ると、北へ進む道は森へと続いているようで、その暗い森の中に、突然、明るく輝く広場が出現。
お伽の国のダンスホールで、全40曲を踊り、帰途につくと、外は小雪が舞う、幻想的な白い世界でした)