連載174。小説『山を仰ぐ』第4章ー②ー1。第4章ー②が始まりました。。
2022/04/22
連載174。小説『山を仰ぐ』第4章俊量(良)-②堀金にてー1
(今日から、第4章ー②堀金にて、が始まります)
天保十年(1839年)、わたくしが松本の御城下を出で、平らの北の堀金に向かったのは、明るい陽射しが飛び跳ねる、早春の朝のことでございます。三寒四温が始まっていました。冬を越せたことがありがたく、安堵の思いもあります。行く手の空は鏡のように晴れ、雪と氷に覆われた白い山々が、北の果てまで続いておりました。
二重の三角がいわれもなく気高い常念岳を望みながら、女鳥羽川に沿って西へ歩き、女鳥羽川が田川と合流した後は、田川に沿って北西へ進む道です。川辺の土手や道端には福寿草の黄色が、地から湧き出る光のように、春を告げていました。
この時、常念岳は真向かいにあります。風はまだ切るように冷たい、春とは名ばかりの朝の、白い常念岳です。その年の小正月、町の子どもたちの三九郎祭りで、わたくしは、空を切るようなこの常念を、女鳥羽川のほとりから見上げていましたっけ。
深く思うことがありました。三九郎で焚きつけた正月飾りの火柱が勢いよく立ち昇り、もうもうとした煙が目に浸みて、泣きたいような、落ち着かない気持ちになったのでございます。
「春が来たら、堀金のおじいさまとおばあさまの庵(いおり)に行きたい」
わたくしが父と母にそう告げたのは、節分の翌日、立春の朝のことでございます。
もとよりそれは、父と母の言い出したことですけれど、、、。
でも、父と母の提案にただ従うのではなく、自分で考えて悩み、自分で決断したことが大事でございましょう? 自分で選んだということが。同じ結論だとしても。
(次回、連載175に続く。
写真は昨夕のNHKのニュースから)
(今日から、第4章ー②堀金にて、が始まります)
天保十年(1839年)、わたくしが松本の御城下を出で、平らの北の堀金に向かったのは、明るい陽射しが飛び跳ねる、早春の朝のことでございます。三寒四温が始まっていました。冬を越せたことがありがたく、安堵の思いもあります。行く手の空は鏡のように晴れ、雪と氷に覆われた白い山々が、北の果てまで続いておりました。
二重の三角がいわれもなく気高い常念岳を望みながら、女鳥羽川に沿って西へ歩き、女鳥羽川が田川と合流した後は、田川に沿って北西へ進む道です。川辺の土手や道端には福寿草の黄色が、地から湧き出る光のように、春を告げていました。
この時、常念岳は真向かいにあります。風はまだ切るように冷たい、春とは名ばかりの朝の、白い常念岳です。その年の小正月、町の子どもたちの三九郎祭りで、わたくしは、空を切るようなこの常念を、女鳥羽川のほとりから見上げていましたっけ。
深く思うことがありました。三九郎で焚きつけた正月飾りの火柱が勢いよく立ち昇り、もうもうとした煙が目に浸みて、泣きたいような、落ち着かない気持ちになったのでございます。
「春が来たら、堀金のおじいさまとおばあさまの庵(いおり)に行きたい」
わたくしが父と母にそう告げたのは、節分の翌日、立春の朝のことでございます。
もとよりそれは、父と母の言い出したことですけれど、、、。
でも、父と母の提案にただ従うのではなく、自分で考えて悩み、自分で決断したことが大事でございましょう? 自分で選んだということが。同じ結論だとしても。
(次回、連載175に続く。
写真は昨夕のNHKのニュースから)
