連載388。『山を仰ぐ』第6章ー①ー5 (写真は、もよう替えをした部屋のCDの棚を喜ぶ、もうじき99歳の父)

連載 388。小説『山を仰ぐ』第6章、幕末から維新へー①ー5
 (前回、俊量から、先の見えないこの時代の解説を頼まれた正彦は、襟を正して話し初めました)

 「今(慶応3年、1867年)になってみれば、日の本を揺るがし始めた発端は、二十七年前に起きた、清とエゲレスのアヘンを巡る戦さではなかったかと思います。
 大陸では明(みん)が滅亡し、清(しん)になって二百年が経っていました。旧態依然の清王朝は、腐敗が進んでいて、多くの役人は賄賂で動いています。清の成立よりも徳川の世の方が早く出来上がっていますからね、日の本のほうがもっと旧態依然かもしれませんけど。どうでしょうか。
 エゲレスは、今から二百六十年も前の関ケ原の頃に、東インド会社を設立し、インドで貿易を初めました。清の始まりより早い時期ですよ。東インド会社は貿易だけではなく、後には軍隊も持ち、エゲレスのインド支配の実行部隊でした。
 清は自由貿易に扉を開かず、腐敗していたので、エゲレスはそこに目をつけ、インドで仕入れたアヘンを、清国に売り付け始めたのです。輸入禁止でも、賄賂があれば密輸できる国でしたから。
 今から七十年前のことです。その後二十年足らずで、インドから清国へ密輸されるアヘンは、輸入品の第一位になりました。隣りの国のことながら、日の本は驚いて「異国船打ち払い令(1825年)」を出しましたね。文政の頃のことです。
 エゲレスはアヘンの密輸でボロ儲けをし、銀が主体の清国の経済で、清の銀の八割がエゲレスに流れていたのです。銀の高騰で物価が急上昇し、清の民の困窮が進みました。
 困り果てた清は何度もアヘン禁輸令を出しましたが、取り締まりの役人は賄賂の汚職まみれですから、少しも効き目がありません。
 そうした時に、林則徐(りんそくじょ)という立派な人が、清のアヘン禁輸大臣に任命され、エゲレス商人の密集地の広東に着任します。天保十年(1839年)のことですから、日の本では、打ちこわしや一揆や餓死者が続出した天保の大飢饉が収まってきた頃のことでした。

 (次回、連載389に続く。
 昨夜、松本に戻りました。東京では父の家の模様替えや片付けに大奮闘。部屋にぎっしりあった本を除き本棚にCDを並べたら、父は大喜びでした。写真2は、もうじき99歳の父が介護の娘をパチリ)連載388。『山を仰ぐ』第6章ー①ー5 (写真は、もよう替えをした部屋のCDの棚を喜ぶ、もうじき99歳の父)

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