連載451.小説『山を仰ぐ』第7章ー②ー11

連載451。小説『山を仰ぐ』第7章・臥雲辰致の誕生―②『西国立志編』ー11
 (辰致は西洋の本の中にあった、機械の名前を聞いただけで、それはどんな機械だろうと、工夫して作ってしまうのでした。語りはキヨ)

 サミュエル・スマイルズの『自助論』を翻訳し、日本で『西国立志編』として出版した中村正直さんは、翌明治五年の二月に、ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』を翻訳して、『自由之理』という本を出版しただいね。
 正彦さんは、この本も瞬く間に読破したそうで、タッチさ宛てに、その感激ぶりを幾度も手紙で知らせてくれたのせ。東京へ行って中村正直先生に会いたい、と言っていたとさ。
 ちょうど同じころ、明治五年の二月、福沢諭吉という人が『学問のススメ』を出したのせ。正彦さんにとっては、三連発だったかもしれねえ。
 「天は自ら助くる者を助く」の『西国立志編』と、人の自由を重んじる『自由之理』と、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」の『学問のススメ』だもの。
 正彦さんは、タッチさへの手紙で、東京へ行って西洋の勉強をしたい、と言ってたそうだじ。正彦さんらしいずら。
 正彦さんは、御一新の前から、緒方洪庵先生の適塾や、適塾で学んだ福沢諭吉が江戸で開いた蘭学塾の話をしていたでね。今は慶応義塾となっている福沢先生の塾へ、入学したいと書いてきたんだと。
 でもせ、前年の明治四年七月に廃藩置県が行われ、松本藩が松本県に、十一月には筑摩県になったずら。それで庄屋は忙しかったじ。明治五年には、庄屋・名主を戸長と呼ぶことになって、さらに大変になったさ。
 戸長は、前の庄屋・名主の仕事はそのままやって、その上に、土地、住民に係わること一切を引き受けることになっただもの。戸籍の管理とかだじ。後には戸長役場というのができたさ。
 廃止が決まった村々の庄屋の中で、戸長をやってもいいという家は少なかったのせ。大変なのが目に見えているだもの。
 国や県からの命令は来るし、災害だって起こるし、村の修理もあるし、村の衆や庄屋衆もまとめていかなならんし。でも、武居家は平田学の素養があったから、世のため人のための仕事なら引き受けにゃならん、として、戸長になっただと。だから、長男の正彦さんは東京どこではなかったじ。

 (次回、連載452に続く。
 写真は、ぬいぐるみ作家松村阿音夢さんの作品。「虹の妖精猫さん」と「チョコミントの妖精さん」。彼女のフェイスブックより)

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