連載625.小説『山を仰ぐ』第9章栄光と事業の困難―①再婚と天皇天覧―12

連載625。小説『山を仰ぐ』第9章・栄光と事業の困難-①再婚と天皇天覧ー12 
 (縁談をまとめた波多腰さんは「臥雲さんは忙しいから、さっさと祝言を挙げて欲しい」と言いました。語りは糸)

 話しが急に現実的になり、しばらく沈黙が続きました。みなさん、「さて、どうするだか」と考えているのでしょう。口火を切ったのは父でした。
 「糸が婿を迎えるんなら、祝言は盛大にと考えていただがね、嫁に行くことは考えていなかったし、周りの人たちも糸は婿を取るものと思いこんでいるさ。
 祝言は、婿を取る時に考えていたように、この家でやったらよいと思うが、わしとしては、ひっそりやりたい気持ちだ。糸が河澄糸なのか臥雲糸なのか、できればうやむやしておきたい気分だじ。
 そりゃ、嘘は言えないだから、聞かれれば糸の苗字は臥雲になりました、と言わざるをえないがの、聞かれなければ、うやむやのままでいいさ。子供はどうせ、河澄の苗字を名乗ることになるだから。
 だからせ、そんなに大々的な準備もいらんずら。さっさと祝言を済ましてもいいということせ」
 なるほど、そういう理由ですか。母さんは、辰致さまと糸を見て言いました。
 「お二人はそれでいいだかや?」
 辰致さまが言いました。
 「私としては、この家で祝言をしていただけるだけでありがたいですし、規模も内輪な方が馴染みます。
 私の名前は今後も臥雲辰致ですし、糸さんも今後、今までどうり、糸さん、と呼ばれることが多いと思います。正式な文書には臥雲糸と書いてもらいますが、通称として、今までどうり、河澄さんの糸さん、と呼ばれてもそれでよいと思います。糸さんは、どう、思いますか?」
 辰致さまにそういわれて、糸に異存はありません。
 「糸も、辰致さまと同じように考えているさ。河澄の糸さん、と呼ばれても「は~い」と答えるずら。今までどうりさ。祝言もごく内輪で早くに済ませましょ。花嫁衣裳も特別なものは無くてよいだもの」と糸が言うと、母さんが口をはさみました。
 「花嫁衣裳なら、もう、ずっと前から用意してあるだじ。糸には内緒だったけどな」

 (次回、連載626に続く。
 写真は、昨日のミサの後に開かれた「おしゃべりカフェ」で販売していたお米。勇んで3袋買わせていただきました。声を掛けていただいた時は「1袋800gくらいです。300円」と言われたのに、家で計ってみたら1100gもありました。数か月振りで我が家にやってきたお米君。ありがた味がひとしおで、その価値を再認識です。
 お米ゲットが嬉しすぎて、ミサ後のトイレ掃除をすっかり忘れてしまった私でした)

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