いわさきひちろ著「ラブレター」、の中の、「おじいさんのすることにまちがいはない」は、次のような文章です。
 「”おじいさんのすることにまちがいはない”というアンデルセンの童話をご存じですか。
 馬をつれて町へでたおじいさんが、途中でであった人たちといろいろなものに交換しながら、さいごにくさったりんご一袋ととりかえてかえってきます。それをむかえたおばあさんが、「ほんとにおじいさんのすることにはまちがいがない」といって心からほめる話です。
 私たち夫婦は、おたがいに、その童話のおばあさんに、少しにているところがあります。だから少しおめでたく、少ししあわせなのではないかと思います。
 私は夫の仕事をおおまかには理解しているんですけれど、細かいことはむずかしくてよくわかりません。だいいちあんなにおおぜいの人前で演説をするなんてことはまったく不思議な、異質な能力です。
 夫にしたってきっとそうでしょう。音楽と図画ではいい点をとったことがない人ですから、私のことを同じように、なんと不思議な能力のある女性だろうと思っているにちがいありません。そういうことは口にだしませんが、私がどんなにへたな絵を描いたって感心してほめてくれるところを見ればわかります。まさにさきの童話のおじいさん版です。
 こんなわけで、おたがいに仕事のことは直接にはたよれないけれど、私の絵がスランプで困っているときなど、夜おそく私は夫にいろんな話をしかけます。どういうふうに私たちは生きていかなくてはならないだろうかというような話、目先の具体的な話ではなくて、なんだか大きい人生の話です。この話し合いは絵には直接関係がないのに、私の仕事にはプラスになるのです。
 自分の毎日描いている絵を、せせこましい技術をはなれて、この世の中や、また歴史の中に大きく広げて考えて見ることができるからです。」
 ひちろさんが50歳の頃の文章です。彼女は、1974年、55歳で亡くなりました。

< 2017年05>
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石上 扶佐子
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