連載227。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―①俊量が語る少年栄弥―3
 (前回は、まだ栄弥が生まれる前の話。栄弥の祖父の十四郎さんが、田沢の村田家にお邪魔して、嫁に来てもらえないかと訴えます。今回もその続き)

 わしも、家の嫁というのは、もうらしか(可哀そうな)もんじゃと思うとります。嫁としての苦労はなるべくかけんようにするで、是非、長男と一緒になってもらえないだろうかと、お願いにまいりました。
 もう、酒も博打もする暇がないように、ほんとは継がせるはずの家と土地を、父のわしと折半して分家をさせ、舅(しゅうと)も姑(しゅうとめ)もいないようにします。
 若いもんの二人だけで、新たに作る家の暮らしを始めてほしいと思うとります。本家のわしらも、いらん口は出しません。
 博打も酒も止めるようにきつく言います。もし、まだやるようなら、全てなみさんに渡して、息子は追い出しますで。
 なみさんも、倅(せがれ)に嫌気がさした時は、どうぞ、気軽に実家へ帰ってくだされ。ほれ、小田多井の横山の家から、田沢のこの家までは一里ちょっとですから。
 ほいで、気分が直ったら、また小田多井に戻ってもらえたら有り難いですわ。
 息子の儀十郎は、根はやさしい人間ですだ。息子が立ち直るには、なみさんのような、みやましい女子(おなご)が必要なのですだ。お願いします』
 十四郎さんは切々と訴え、頭を下げました。横にいたわたくし俊水も、深々と頭をさげ、
 『わたくしからも、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。  
 毎日、仏さまに、二人の安寧(あんねい)と、横山の新宅の繁栄をお祈りし、わたくしも、命のあるかぎり、お二人をお支えいたしますから』と言い添えました。
 なみさんと、とっ(父)さまの村田孫市さんと、かか(母)さまは心を動かされてね、なみさんが数え十八になったら、祝言(しゅうげん)を上げることになりました。

 次回連載228に続く。
 写真は、髙野榮太郎さんが個展に来て下さった方に、お礼に出した暑中見舞いです。「ウクライナに花を」シリーズは完売で、おかげてウクライナ難民支援の寄付ができ、感謝です、とありました。廃墟に花の、美しい作品です。

< 2022年08>
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石上 扶佐子
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