連載228。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―①俊水が語る少年栄弥―4 
 (前回は、横山十四郎さんが俊水さんをともなって田沢を訪ねたかいがあり、横山儀十郎さんと村田なみさんの縁談がまとまりました)

 横山家では、祝言に合わせて新宅を建て、田畑を分けました。
 村田家では、なみさんが嫁入り修行を始めました。麻や木綿の糸とりや、機織り(はたおり)、裁縫の猛特訓です。嫁いだら、女の仕事を教えてくれる人がいないので、これだけは、と覚悟を決めて、上手にできるよう励んだのです。
 その時織った布や作った着物が、嫁入りの長持ちの中身となりました。嫁入り道具の一番は、機織り(はたおり)機でしたね。織り機はもちろん、地機(じはた)のことですよ。天保の頃はまだ、この辺りの農家では、高機(たかはた)の織り機はありませんでしたから。
 糸車もありませんでした。あの頃、糸車は、町場の糸屋かおでえ様(お金持ち)か村の庄屋さんくらいしかもってなくて、普通はツム(コマを細長くした形の紡錘器)をくるくる回して、麻も綿も紡いでおりました。
 儀十郎さんとなみさんの祝言の翌年に、長男の九八郎さんが生まれ、五年後に次男の栄弥さんが生まれました。夫婦揃って力を合わせ、家業と子育てに励む若くて気持ちのよい家でした。
 弟の栄弥さんが生まれた時、兄の九八郎さんは、なにやらやたら張り切っている様子でした。兄やになる喜び溢れていましたね。弟が出来るということが、そんなに嬉しいのかのと、つくずく思ったことですよ」
 わたくしの師の俊水さまがお話しくださったのは、そこまでです。栄弥さんが生まれてからは、横山家はわたくし俊量の担当になりましたからね。

 (次回229に続く。
 3日前のフォークダンスの会はメキシコ特集でした!)

< 2022年08>
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石上 扶佐子
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