連載446。小説『山を仰ぐ』第7章・臥雲辰致の誕生ー②『西国立志編』ー6 
 (前回は、発明した機械の説明を、辰致が正彦に懸命に語りました。一緒に喜んでほしくて)
 
 正彦さんは、新しい機械を見て、すぐに理解できたようでした。タッチさの両肩を掴んで揺らしながら
 「おめでとうございます。すごいですね。まことにおめでとうごさいます」と言ったさ。跳び上がらんばかりだった。
 タッチさが、機械小屋の横を流れる小川に作った水車を指さしながら
 「水車で回すことも考えているのす」と言った時、正彦さんは、今度は本当に跳び上がって驚き
 「なんと、なんと、臥雲さん」と言って、絶句したのせ。
 ただならぬ雰囲気を感じて、キヨは言ったさ。
 「機械小屋では寒いから、家の炉端へ行って、熱い湯でも飲みまっしょ」
 囲炉裏を囲んで座り、湯を飲んでお菜(野沢菜)漬けを摘まむと、正彦さんがおもむろに切り出しただ。正座をし襟を正して。
 「臥雲さん、私は今日、あなたに是非読んでいただきたい本があり、それを持ってまいりました。昨年の七月に出版された本です。
 私は平田学の影響で西洋の勉強に励んおりましたので、この本のこともいち早く知り、出版前から松本の高美や書店さんに頼んでおき、出るとすぐに読むことができました。
 『西国立志編』という本です。中村正直先生が翻訳されました。幕末にイギリスへ行った留学生の監督として西洋を廻り、明治元年に帰国された方です。
 原版は『自助論』という本で、イギリスのサミュエル・スマイルズという人が14年前に書き、イギリスでも良く売れています。多くの国で翻訳もされています。大きな仕事を成した、西洋の興味深い沢山の人々のことを書いています。
 その、第二編「発明・創造により国家を富ませた偉人たち」の中に、アークライトという人のことが書かれているのです。私は、久しぶりにあなたにお会いして、衝撃を受けました。なんと、ここに、日本のアークライトがいるではないか!、と」

 (次回、連載447に続く。
 明日の土曜日は、安曇野体育館で、9時45分から夕方まで、フォークダンスの長野県60周年記念大会があります。写真は一昨日の水曜日の例会(参加者16名)のフリータイム)

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石上 扶佐子
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