連載112。小説『山を仰ぐ』第3章の3-19
 (前回は、弧峰院での三人。正彦が「何故隠居なのか」と追及し、智恵が言います。「智順和尚は、私に時間という最も大切な物を下さったように思います」と)

 正彦さんの追及は続きます。腕まくりをし、藍染木綿のゆかたの袖を肩にかけました。
 「では、どうして、智恵さまは、まだ二十五歳なのに、若隠居になったのですか」
 良く、聞いてくれました。私も不思議です。
 智恵さまは、あたふたしています。
 「いや、それは、あくまで、私の感じたことですから、、、、。
 誰も、隠居とは言っていませんから、、、」
 正彦さんと私は顔を見合わせて、クスッと笑いました。どんどん楽しくなってきます。
 智恵さまが、麦茶を口に含み、法衣の襟を合わせました。私たちは黒蜜寒天をご馳走になります。たいへん美味しゅうございます。体制を立て直して、智恵さまが言いました。
 「どうしてか、は、判然とはしませんが、私が推測するに、水車が発端かもしれません」
 「さっきの小僧さんが言っていた水車ですか? 
 智順和尚さまに、引き取れと言われた水車のことですか?」
 問うたのは私です。ちょっと勇気をだして。
 正彦さんが、応援してくれます。
 「今朝、山口家の墓から降りて来る時に、一番下の三の池の入口に、真新し水車がありましたが、あのことでしょうか」
 合点(がてん)をしながら智恵さまが言いました。
 「そうです、そうです。私が作った水車です」
 まあ、なんと! 

 (次回113に続く。
 写真は、正月にお誕生祝いをした孫のパパ)

< 2022年01>
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石上 扶佐子
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