連載358。小説『山を仰ぐ』第5章ー②ー20 (写真は今日の市長記者会見)

連載358。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―②俊量が語る青年栄弥―20
 (前回は、栄弥が新作の糸車を持って志野の家を訪ねた時、赤ん坊が生まれました)

 顔も綺麗に拭いてもらって、ピカピカの頬の女の子は、湯から上がって、真っ白な晒(さら)し木綿の産着を着せてもらったのせ。そりゃ、みやましか、可愛い女の子に見えたじ。
 だってせ、晒(さら)し木綿といやぁ、この辺りじゃ珍しいものだじ。めったにないものだじ。
 木綿を晒すのはえらい(大変)なことせ。木綿を灰汁に浸して、煮て、臼の中で叩いて、清水で洗って、それを野原で乾すだじ。それを幾度も繰り返さなならんのだじ。
 そんな手間暇かけたもんを着ていたのせ。その女の子は。大切に思われていたずら。みやましか子だったもの」
 その赤ちゃんをね、真っ白な晒し木綿の産着を着た女の子を、産婆さんは栄弥さんに抱かせてくれたのです。
 栄弥さんは、気が動転したそうですが、囲炉裏端に腰をかけ、落とさないように細心の注意を払って受け取り、その軽やかな重さをしっかり心に留めたと言っていました。
 その女の子がキヨさんですからね。出会いというのは不思議です。
 その夕暮れ、栄弥さんは、志野さんへの贈り物の糸紡ぎ器を家の人にことづけ、帰途につきました。明日は満月という夜、すでに、大きな月が煌々と東山の上にありました。ススキが金色に揺れ、秋の虫が名残りを惜しんで鳴いています。大妻から小田多井までの月夜の道は、言うに言われぬ綺麗さだったそうです。
 それはわたくしにも、良く分かることですよ。栄弥さんが生まれた夜、わたくしも、小田多井から堀金までの満月の夜道を歩き、今までで一番美しいと思えた月夜の時間を過ごしましたもの。
 この時、栄弥さんは数え十四で、少年の面影は残していましたが、すでに一人前に働き、志を持ち、自前の道具を生み出しでもいたのですから、青年だったといってもいいでしょうね。そして、栄弥さんの青年時代のもっとも楽しかった時が、この年の九月の満月の夜だったかも知れません。

 (今日は市長記者会見の日。先週は「物価高ゆえ、水道基本料金を4か月間徴収せず、各自の手続きは不要」のビックニュースがありました。今週は、秋冬の観光行楽補助のニュースです)連載358。小説『山を仰ぐ』第5章ー②ー20 (写真は今日の市長記者会見)
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