彼は農夫ですが詩人です。(宮沢賢治のような)詩人が夜の農場で、薪を燃やす火を見ながら、薬草を炊いています。安曇野の秋の夜は、もう寒いでしょうね。

連載45.小説『山を仰ぐ』第2章の3-4

 智恵さまと私が驚いたので、正彦さんは急いで、言いわけのように付け加えました。
 「平田篤胤(あつたね)先生は理をもって、森羅万象を解き明かそうとされた方なので、そのご著書はとても面白いのです。長く続いている鎖国の世で、異国の学問を説いてくれます。
 ニュートン力学とか天文学とか。世界の成り立ちや現状も。地球は太陽の周りを回っているそうですよ」
 まあ、異国の学問だなんて。大きな声では言えないことです。
 「平田先生は天文学や地理に精通していたので、『江戸幕府が太陽暦を採用しないのは愚かだ』と言って、江戸払いになりました」
 一所懸命だからでしょうか、正彦さんは、いつになく言葉が続きます。
 「幕府の外交はオランダのみですから、入ってくる知識もオランダからだけです。その知識も幕府の奥にひた隠しにしていますから、日の本では新しい知識が乏しくて」
 こういうお話は、お二人が殿さま部屋に座っているせいでしょうか。正彦さんは、日の本の未来を考えているのです。
 でも、ここに泊まった松本藩の殿さまが、天下国下を考えていたかどうかは、怪しいです。
 「そうですか」
 智恵さまが静かに言われました。
 お坊様は説教をする人かと思ったら、この方は話しを聞かれるお坊様です。
 よし、聞くぞ、という智恵さまの気合がみなぎっているので、正彦さんも、よし、話すぞ、と意気込んでいるのです。

 (次回、連載46に続く。
 写真は農場の孫)

< 2021年10>
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