2021/10/23
連載52。小説『山を仰ぐ』第2章の3-11
腑に落ちていないので、正彦さんは続けます。
「二十年前に亡くなられた平田先生は、沢山の著書を残していて、その教えを多く人が学びました。今の世を変えなければ、という大きなうねりが出来、草莽(そうもう)の志士は、世ならし、世直しを叫んでいます。
そして今は、あちらこちらで斬り合いがあり、自分の正義のために、反対する者を殺してします。
人が飢えて死ぬのも嫌ですが、私は戦さが嫌です。怖いです。
和歌を愛でた、万葉の人の心音では生きられないとしても、自ら戦さには進みたくないのです」
なるほど、、、。
「世直しのために、日の本のあちらこちらで、盛大に気勢をあげている、草莽の志士たちを尻目に、こんなこと、言いたくはないのですが、、、」
新米の平田門人は、こんなに言いにくいことを、智恵さまに言ったのでした。
「そうですか、、、」
智恵さまは今度も静かにそう言い、正彦さんの目を真直ぐに見ました。
「それでいいではありませんか。私も同じです。だから寺で励んでいるのですよ」
気が合うって、こういうことかしら。
まだ、過去に一度しか会っていないのに、誰にも言えないようなことを、すらすらと言ってしまう。神か仏の力が働いているのです。きっと。
(次回、連載52に続く)
腑に落ちていないので、正彦さんは続けます。
「二十年前に亡くなられた平田先生は、沢山の著書を残していて、その教えを多く人が学びました。今の世を変えなければ、という大きなうねりが出来、草莽(そうもう)の志士は、世ならし、世直しを叫んでいます。
そして今は、あちらこちらで斬り合いがあり、自分の正義のために、反対する者を殺してします。
人が飢えて死ぬのも嫌ですが、私は戦さが嫌です。怖いです。
和歌を愛でた、万葉の人の心音では生きられないとしても、自ら戦さには進みたくないのです」
なるほど、、、。
「世直しのために、日の本のあちらこちらで、盛大に気勢をあげている、草莽の志士たちを尻目に、こんなこと、言いたくはないのですが、、、」
新米の平田門人は、こんなに言いにくいことを、智恵さまに言ったのでした。
「そうですか、、、」
智恵さまは今度も静かにそう言い、正彦さんの目を真直ぐに見ました。
「それでいいではありませんか。私も同じです。だから寺で励んでいるのですよ」
気が合うって、こういうことかしら。
まだ、過去に一度しか会っていないのに、誰にも言えないようなことを、すらすらと言ってしまう。神か仏の力が働いているのです。きっと。
(次回、連載52に続く)
