2021/10/26
連載53、小説『山を仰ぐ』第2章の3ー12
真喜治さんが目を覚ましました。正彦さんが手を振ると、真喜坊は嬉しそうに走り寄っていきます。
生まれてからずっと、そばにいた兄さんですもの。
正彦さんの膝に乗った真喜坊は、振り向いて智恵さまを見、しばらくそのお顔をじっと見つめていました。
「真喜坊、こっちへおいで」
智恵さまが両手を広げて、真喜坊の前へ差し出します。
さらにまじまじと、智恵さまのお顔を覗き込んだ挙句、真喜坊は智恵さまに近づき、捕らえられ、その膝の上に滑り込んだのでございます。
この家の女衆と、久しぶりのおしゃべりを楽しんでいらしたかく様が、楽しい気分を残したまま、客間に顔を出しました。
「正彦さ、お風呂の用意ができたってせ。先に頂いてくれましょ」
かく様は、智恵さまの膝に抱かれている真喜治さんを、チラリと見て、行っておしまいでした。
真喜坊も、なんともなく、智恵さまの腕の中です。智恵さまと同じ方を向き、一緒に庭を見、山を見、空を見ています。
「では、失礼して」
正彦さんが湯殿へ行った後も、智恵さまと真喜坊はそのままでした。
風鈴の鳴る縁側で、私も庭と山と空を見ていました。
静かな夕暮れでした。
その不思議な時間を、私は忘れることができません。
短い時間だったはずなのに、永遠の時、と名付けたくなるひと時でした。
「では、私も失礼します」
智恵さまはそう言い、真喜坊をそっと私のほうへ押しやり、静かにお帰りになられました。
(今日で、第2章の3が終わり、次回からは第2章の4です。連載は8月19日から始まっていて、下記ブログのカテゴリー「小説『山を仰ぐ』」で最初から連続で見れます)http://fusakoblog.naganoblog.jp/
(次回、連載53に続く。写真は友人の昨日の投稿から。北アルプスは雪です)

真喜治さんが目を覚ましました。正彦さんが手を振ると、真喜坊は嬉しそうに走り寄っていきます。
生まれてからずっと、そばにいた兄さんですもの。
正彦さんの膝に乗った真喜坊は、振り向いて智恵さまを見、しばらくそのお顔をじっと見つめていました。
「真喜坊、こっちへおいで」
智恵さまが両手を広げて、真喜坊の前へ差し出します。
さらにまじまじと、智恵さまのお顔を覗き込んだ挙句、真喜坊は智恵さまに近づき、捕らえられ、その膝の上に滑り込んだのでございます。
この家の女衆と、久しぶりのおしゃべりを楽しんでいらしたかく様が、楽しい気分を残したまま、客間に顔を出しました。
「正彦さ、お風呂の用意ができたってせ。先に頂いてくれましょ」
かく様は、智恵さまの膝に抱かれている真喜治さんを、チラリと見て、行っておしまいでした。
真喜坊も、なんともなく、智恵さまの腕の中です。智恵さまと同じ方を向き、一緒に庭を見、山を見、空を見ています。
「では、失礼して」
正彦さんが湯殿へ行った後も、智恵さまと真喜坊はそのままでした。
風鈴の鳴る縁側で、私も庭と山と空を見ていました。
静かな夕暮れでした。
その不思議な時間を、私は忘れることができません。
短い時間だったはずなのに、永遠の時、と名付けたくなるひと時でした。
「では、私も失礼します」
智恵さまはそう言い、真喜坊をそっと私のほうへ押しやり、静かにお帰りになられました。
(今日で、第2章の3が終わり、次回からは第2章の4です。連載は8月19日から始まっていて、下記ブログのカテゴリー「小説『山を仰ぐ』」で最初から連続で見れます)http://fusakoblog.naganoblog.jp/
(次回、連載53に続く。写真は友人の昨日の投稿から。北アルプスは雪です)

