連載320。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―①俊量が語る少年栄弥―26
 (前回栄弥は、魔法のような大工の仕事に魅せられていました)

 現場では棟梁や大工や見習いの弟子に、声を掛けてもらうこともありました。
 「ほれ、じゃまだ。あっちへいけ」というのも頻繁でしたが、
 「おい、坊主、幾つだい」
 「どこの村の子だい」
 「大工仕事は面白いか?」など。
 ある日、宮大工の棟梁が訊(き)いてくれました。
 「おい、坊主、お前、何か作りたいものが、あるだかい」
 その時、栄弥さんは黙ったままでしたが、しかし、つぎの日に、勇気を出して言ったのです。
 「おらは、からくりをつくりたいだ」
 棟梁は驚いて、言いました。
 「おや、まあ、なんてこんだい。どんなからくりを作りたいだか」
 栄弥さんが答えます。
 「どんなんかは、まだ、わからないだ。だけど、父(とと)さ母(かか)さの糸繰りを助けるからくりの道具を作りたいだ」
 小田多井中村の大工さんが言いました。
 「よう、栄弥よ、わしは、お前の家に幾つもの糸車をこしらえて納めたずら。あれじゃいかんのかえ」

 (次回、321に続く。
 動画は、小さな音で録音できなくてすみません。スマホの音を小さくしていただけると見やすいです。6秒)

< 2022年09>
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石上 扶佐子
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