連載321。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―①俊量が語る少年栄弥-27 
 (前回は、八幡神社の仕事場で、宮大工の棟梁や小田多井中村の大工さんが、栄弥に声をかけてくれました。)
 
 栄弥さんが答えます。
 「大工さんが作ってくれた糸車は、みやましか(美しい最上の)道具だいね。でもせ、もっと早くもっと沢山の糸が紡げねえかと思うだじ」
 「おんや、まあ、驚(おど)けたじ。そりゃ、まだ、誰も作っていないずら?」
 栄弥さんは、顔を赤らめて、下を向きつつ、うなずきました。
 驚いた棟梁は、手下の大工さんたちに、
 「おい、おあら、頼みがあるだ。この坊主が知りたがっていることは、なんでも教えてやってくれないか。少々仕事が遅れてもかまわねぇ。丸山さんには俺が話しをつけるでな」
 と言ってくれたのです。
 栄弥少年はうつむいて、身を固くしたままでしたが、その時の嬉しさを、後に
 「あの時ほど嬉しかったことはねぇ。身体が空へ飛んでくかと思ったじ」と言ってました。
 栄弥さんは、そこで行われている何もかもが知りたかったのです。
 要領よく質問し、そして答えてもらいました。この時、教えてもらった、測量方法、計算方法、からくりの歯車の作り方などは、栄弥さんの宝となりました。
 栄弥少年は、八幡神社に集う大工さんを、強く尊敬していました。大工たちも、毎日やってくる少年を可愛く思っていました。大工という技術を中にして、ならう者の尊敬と、教える者の愛情ががっしりと組み合い、八幡神社での時間は、栄弥さんにとって何にも代え難い喜びでした。 

(次回、連載322に続く。
 写真は3年前の9月2日。松本駅前街頭演説。記者さんの取材がありました。言っていることは、今と余り変わりません。
 写真3の新聞記事は、月曜日の市長記者会見の内容を膨らめて、昨日の市民タイムスで一面トップに)

< 2022年09>
S M T W T F S
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
過去記事
QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 1人
プロフィール
石上 扶佐子
石上 扶佐子