連載328。小説『山を仰ぐ』第5章・栄弥―①俊量が語る少年栄弥―34
 (前回は、糸紡ぎを頼む農家を探しに行くと声をかけてもらった栄弥が、粉雪の舞う寒い午後、父と一緒に勇んで家をでました)

 小田多井から南の住吉や楡(にれ)や長尾までは、すでに開拓済みでした。兄の九八郎さんが廻っている道です。八九郎さんは常々農家の人に
「もし、この仕事を引き受けてくれそうな家があれば、紹介しておくれやね」と頼んでいたので、まずは、やってみても良いと言ってくれた家を周ります。長尾から南の野沢や大妻は、飛び入りの交渉になりました。
 儀十郎さんは、見知らぬ農家の入り口で、
「ごめんなさんし(ごめん下さい)」と大声を張り上げ、中の様子を伺います。返事がないと、そろりそろりと敷地内に入り、遠慮がちに「ごめんなさんし」と、数回つぶやきました。さらに反応がなければ、入口の板戸を叩き、あるいは中庭に周り、声を掛けるのです。
 そうして、やっと出てきてもらえた家で、事情を話します。相談に乗って貰えそうな家では、土間に入れて貰えました。囲炉裏の端に腰を掛けさせてもらい、仕事や手間賃の話しをしていくのです。
 囲炉裏を囲み、家族が作間仕事のわら草履(ぞうり)や、わら蓑(みの)を作っていました。儀十郎さんは、仕事をしている男衆に、遠慮がちに、声をかけます。
 「今しているその作間仕事を減らし、木綿糸を紡いでもらえないだだか。糸車をお貸ししますで。手間賃は、藁仕事より稼げますだいね。ほんの少しずつでよいから、試しにやってみてくださらんか」とね。

 (次回、連載329に続く。
 小説のツマミの写真がなくて最近と似た様なこんなん。写真の部屋はハワイの高級ゲストハウスなので比ぶべくもないのですが、わたし、バックパッカー向きのゲストハウスをやろうかどうしようか、悩んでいます。どうしようか、、、、、)

< 2022年09>
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石上 扶佐子
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