(連載160。小説『山を仰ぐ』第4章俊量(良)―①中町時代―20
 (前回は、良が、いずれは呉服屋の嫁になるというつもりで、中町通りの二軒隣りで暮らし始めました)
 
 呉服屋のご主人と奥さまは
 「良ちゃんには、この家と店に馴れてもらえばいいのだから、好きにしておくれね。中庭に面した部屋を、良ちゃんのために用意しましたよ」と言ってくれました。
 わたくしはまだ寺子屋に通っておりましたので、呉服屋の皆さんと一緒に食事をする他は、夕方に店や勝手場の手伝いをさせてもらいました。お客さんのお相手はできないけれど、お茶を運んだり、履物をそろえたりして、店の雰囲気もだんだんに解ってきたのでございます。
 わたくしの家にも、かつては奉公人がいましたが、呉服屋にはその時もまだ10人程の使用人がおりまして、番頭さんも、手代の人も、丁稚さんも、女中さん方も気安くしてくれました。昔から見知っている近所の娘でしたから。
 跡取り息子は寺子屋を卒業し、剣術道場へ通っています。本来なら、店の手伝いをして商売を覚えていく年頃ですが、まだ遊びたい最中のようでした。書生に出たわたくしの兄と同じ年ですが、とてもそうは見えません。体格は大きいのに、中身はぼんくらで。
 「祭りの準備があるのせ」との口実で、町の若衆と出歩いていましたから、話しをすることもありませんでした。家の廊下ですれ違えば、あの方が「おっ」と言うだけです。
 今から思えば、あれで、一応、挨拶のつもりだったのでしょうね。何を考えているのか、少しも分らないのは以前と同じでした。男心は、誠に、解らないものでございます。

 (次回、連載161に続く。
 今日は市長記者会見の日、でしたが、WEBの接続が上手くいかず、パソコンの音の接続も不良でしたので、写真だけ)


< 2022年04>
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石上 扶佐子
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