連載164。小説『山を仰ぐ』第4章俊量(良)―①中町時代―24
 (前回は、良が、半年前までいた生家の新井屋薬店と、嫁になる予定の呉服屋との、心意気の違いに気が付きはじめました)

 新井屋の書画骨董は無くなっても、家のある間は、祖父や父の文人仲間の訪問が絶えませんでした。ですから、良ちゃん、良ちゃんと呼ばれる楽しい集まりもあったのに、家が無くなり、呉服屋へ来たら、気心の知れたお客人の会合がなくなったのも、寂しいことでした。
 こんな家のお嫁さんには、なりたくないなあ~。
 家が没落するというのは、案外きついことのようでした。おじいさまや、おばあさまや、兄さまの居ない暮らしは寂しく、父さま、母さまと一つ屋根ではない暮らしが、思いのほか身に応えていたのです。
 よし、この呉服屋で何とか楽しく生き抜こう、なんて思いも及びませんでした。今思うと、だいぶん落ち込んでいましね。
 こんな家のお嫁さんには、なりたくない。
 そう思うにつけ、私のわがままではないかと、思い悩みましたよ。
 居させてもらい食べさせてもらっているのに、皆、それなりに優しいのに、将来はこの大店(おおだな)の奥さんになるというのに、、、、、。
 いずれは夫になるという跡取り息子のことも、悩みがありました。
 いじわるをしたり、「おっ」と言うだけでも、もしかして、わたくしを好きなのかも知れませんが、でも、わたくしからみたら、何も楽しいことはありません。何を考えているのだかわからい人が、おっ、と言って通りすぎても、少しもいいことはありません。
 もし、わたくしがあの方を好きだったなら、いじわるも、おっ、も嬉しかったかもしれませんね。今ならそう思えますが、あの頃は、別に好きではありませんでしたから、なんか、やな感じだなあ、と思うばかり。ずっと、こんなふうに暮らしていく夫婦って、やだなあ、と思ったのでございます。

 (次回、連載165に続く。
 写真は、今日の市民タイムス2面。今年の花いっぱい運動発祥記念祭の様子です。花の種が付いた風船を、園児や市長らが飛ばしたそうです。花も子どもも好きな臥雲さんには、楽しいひと時だったと推察)

< 2022年04>
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石上 扶佐子
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